これまでのあらすじ
白衣のなみだ 第一部「余命」
百田滴(水野美紀)が闘病生活を送っていた頃、こんな出来事があった。
滴は、砂浜に万年筆を埋め、思いつめた表情で海に入水しようとする若い女性に声をかけたことがあった。
その女性は汐見ハナ(平山あや)、ハナにとって滴の優しい言葉は、乾いた大地を潤す天のしずくのように思えた。
8年後、27歳になった汐見ハナは湘南清風総合病院のクリーンスタッフとして初出勤の日を迎えていた。チーフの三隅潔(福澤重文)や、先輩の才原晴美(平田敦子)たちに仕事を教わりながら働くハナ。
ハナは安い賃貸アパートで小学2年生の娘・汐見サヤ(遠藤璃菜)と2人で暮らしている。父親はおらず、サヤには「お父さんは海外で働いている」とだけ伝えてある。
サヤは同級生の広田大地(長谷川戒)の見舞いや、元役者の老人・十一(綿引勝彦)に折り鶴を届けるために病院を毎日のように訪れていた。病院には母がクリーンスタッフとして正式採用されたので、母とも会える。サヤは母のことが大好きだった。
その日、サヤが病院に来ると、禁煙エリアでタバコを吸っている心臓外科医・加地立平(和田聰宏)がいた。加地はサヤから喫煙を注意されると、ふてくされた様に窓の外に吸殻をポイ捨てして去っていく。
ハナは「娘が失礼なことをしました」と詫びて頭を下げるが、サヤは「自分は悪くない」と言って引かない。その日からサヤは加地を「不良オヤジ」と呼んで嫌うようになった。
その頃、病院の玄関では、事務長の小沼義男(徳井優)が入院患者の到着を待っていた。高級車が到着し、中から通販会社の社長・富沢佐智(水野久美)が息子の妻・富沢茜(黒坂真美)に付き添われて現れる。
佐智は心臓病患者である。佐智は入院費用が1日5万円かかるという特別室に入ることになり、心臓外科医の加地が彼女の担当医になった。
ハナは清掃のために特別室に出入りするが、佐智や息子・富沢貴之(南圭介)とは顔を合わせたくない理由があった。
が、ひょんなことから名前を知られ、佐智に呼び出される。佐智はビジネスでの厳格な表情と違い、ハナに対してはにこやかな笑顔を見せる。
実は、佐智はハナの亡き両親と親しく、ハナを養女にしようかと思うほどかわいがっていた過去があったのだ。佐智がハナと最後に会ったのは8年前、ハナが誰かの子を妊娠し、佐智が中絶を勧めた日を最後に音信不通になっていた。
ハナが最も顔を合わせたくない存在が幼なじみの貴之だった。貴之に初対面のように挨拶をするハナ・・・。
夜、ハナは過去のことを思い出していた。
貴之がMBAの取得のために渡米する前日、貴之から愛用の万年筆をもらったこと。桜の花びらが舞う中、キスしたことを。
一方、加地は「うさぎのマスコット人形」を見ながら、悲しい事故の記憶を思い出していた。加地には天樹さやか(上野なつひ)という婚約者がいたが、2ヶ月前に交通事故で亡くなっていたのだ。
事故の発端は、一人の小学生が車道に飛び出し、走行してきたクルマからその小学生をさやかが守ろうとしたことだった。小学生は無事だったが、さやかは身代わりになり、クルマにはねられた。湘南清風総合病院に搬送されてきた彼女を緊急手術したのは、婚約者の加地であった。
加地には手の施しようがなく、さやかが亡くなってから発覚したことは、彼女が妊娠していたという事実。
そして、病院に搬送されてきたさやかが握りしめていたものが、手編みの「うさぎのマスコット人形」だった。
さやかの友人である看護師の井村美鈴(ICONIQ)は、そのマスコットが「生まれてくる赤ん坊のために作られたものじゃないか」と話していたが、加地には気がかりなことがあった。
ハナの娘・サヤが、目鼻口の細かいデザインまでそっくりなマスコットを持っているのを見てしまったのだ。
その時、加地はふと思った。あのうさぎのデザインが例えば母・ハナが作ったもので、オリジナルのデザインだったとしたら?そして、さやかが身代わりになって助けたのはサヤで、何らかのはずみでサヤが身につけたマスコットを握りしめたのだとしたら?
加地はさやかが命とひきかえに助けた小学生はサヤだったのではないかと思い始める。
加地はさやかの姉・天樹しずか(松尾れい子)に、さやかが身代わりになって助けた小学生の詳細を尋ねることにした。小学生の親は焼香に来た時、深く詫びていたという。しかし、その小学生が誰かについては「その事故にあなたがこだわるのはさやかも望まないはずだ」として、口を閉ざす。
ハナの従兄・汐見通(河相我聞)が、ふらっとハナの自宅にやって来る。
ハナの過去を知っている通は、ハナに対して、サヤの父親は貴之だろうと自分の直感を突きつける。
通が周辺をかき乱すことを恐れるハナは、通になけなしの生活費を渡し、彼の言いなりになってキャバクラで働くことを条件に消えてもらうことにした。
ある日、そのキャバクラに外科医の置田龍太郎(長谷川朝晴)に誘われて加地が入店する。加地はハナが酔っぱらいの客にからまれているのを偶然目撃し、黒服の追手を振り切ってアパートまでハナを連れ出す。
無事に逃げのびたが、ハナの自宅には黒服の連中が詰めかけている可能性があり、帰りにくい。すると、加地はそのアパートに住んでも良いと言う。ハナはその厚意に甘えることにした。
ハナは家賃を払おうとするが加地は受け取ってくれない。ならばと弁当を差し入れし、加地は文句を言いながらも弁当を気に入るようになる。
しかし、加地に好意を抱く看護師の美鈴はハナが気に入らない。美鈴はハナに対して加地の婚約者が亡くなった話をし、「あなたがどれだけ頑張っても彼は振り向かない」と一方的にたたみかける。それを聞いたハナは加地の心痛を気にかける。あのアパートは、本来は婚約者と過ごすはずのアパートだったのだ。
湘南清風総合病院の院長・大島文彦(増沢望)が海外視察を終えて帰国する。
そんな中、貴之は「サヤはお前の子供だろう」と脅しにきた通に多額の口止め料を渡して退散させたり、経営コンサルタントの立場から病院の合理化について院長に助言をしたりと裏で動く。院内は業務削減やリストラのウワサでもちきりになる。
一方、佐智はサヤの父親は貴之ではないかと疑い始める。貴之自身もサヤの父親が誰なのか確信はなかった。ハナに問うと「サヤの父親は貴之さんの知らない人」だと言う。
サヤが飼う亀「ウラシマ」が死ぬ。病院の花壇に作ったウラシマの墓にサヤと手を合わしてやる加地。
ウラシマの死因は水槽を外に出していたことで水温が上がりすぎたためだと加地は話し、サヤの不注意を咎める。通りがかった貴之は「まだ子供には残酷だ」と責めるが、「死ってのはお構いなしにやってくる。それを教えて何が残酷だ」と加地は返す。
そして、病院の合理化で小児科を切り捨てる話に憤りを感じていた加地は、裏で病院を操ろうとする貴之に対して初めて怒りをあらわにする。
そんな中、ハナは勤務後に貴之と二人きりで会う。酔った貴之から幸せかと尋ねられるハナ。帰りに二人でいたところ、サヤをおぶった加地と鉢合わせする。
貴之は加地がハナとサヤを自分のアパートに住ませていることに疑問を感じており、加地に「お前はその子の何なんだ?」と本音をぶつける。
加地もそのセリフをそのまま返し、同じ問いを貴之にするが、貴之は「俺はその子の・・・」と言ったまま去ってしまう。
加地はサヤの勉強の相談に乗ってやったりし、サヤは加地のことを慕うようになる。ハナも信頼を寄せるようになり、加地はそんな生活に心地良さを感じるが、美鈴から「さやかのことを忘れてしまったみたい」と言われる。
一方、貴之と茜の夫婦仲が悪化する。クリーンスタッフのハナが現れてから、貴之も佐智もどこか様子がおかしく、彼らの間に自分の知らない秘密があるような気がしていた茜。
茜はついに激高し、貴之は興奮する彼女に手をあげてしまう。が、ひそかに茜は貴之とハナの過去に気付いており、「夫婦なのに秘密を隠し通そうとすることが許せない」と思いをさらけだして出て行く。
その日、貴之が胃潰瘍で倒れ、入院する。後日、茜が見舞いに訪れ、「お互いが自分らしく生きるために」と貴之と離婚について話し合うが、茜に妊娠の兆候があらわれる。
ハナは佐智から「サヤを養女として引き取りたい」と言われ、動揺する。病院の合理化に絡んでいる富沢家の人間が気に入らない加地は「あんな奴らにサヤを渡すためにさやかは身代わりになったんじゃない」と憤激する。婚約者が命とひきかえに助けた小学生の話を聞き、加地がこれまで自分たちに優しくしてくれた本当の理由に初めて気付くハナ。
そんな中、加地のもとに婚約者の姉・しずかから手紙が届く。加地は同封されていた写真から、婚約者が身代わりとなって助けた小学生がサヤではなく山内空(浅川蓮)という少年だったことを知り、衝撃を受ける。うさぎのマスコット人形はサヤが作ったもので、保育園で仲良しだった空にサヤがプレゼントしたのだった。
ハナは悩みぬいたすえ、サヤの将来のために養子縁組を組むことを決意し、佐智に手続きを頼む。しかし、それをサヤに聞かれ、養子縁組の意味を知ったサヤが失踪する。
ハナはサヤが故郷の港町に行ったと直感する。一方、港で漁師の見習いをしていた通がサヤを目撃。足を滑らせたサヤが海で溺れる。港町に急行したサヤと加地は通の声でその事態に気付く。通によって助け出されたサヤは百田良介(永井大)の診療所に運ばれる。
周辺の道路では嵐による土砂崩れが起こり、救急車が近づけない。サヤの腹部は腹腔内出血を起こしており、血圧が下がっている。一刻の猶予もない。
加地は緊急手術を決断する。ハナが輸血をしながら、加地が手術を執刀することに。良介の息子・百田瞬太(樋口海斗)は他にAB型の血液を提供してくれる人を近隣にさがしにいく。
緊急手術は成功し、翌朝、サヤは湘南清風総合病院に運ばれる。ハナが加地に礼を言うと、加地は「サヤを助けたのは俺じゃない。俺があの子に救われたんだ。俺の方こそありがとう」と礼を返す。
この手術をきっかけに、ハナはサヤの養子縁組を断ることを決める。診療所で目にした良介の妻・滴の写真をみて、8年前、海に入水しようとしていた妊娠中の自分に彼女がかけてくれた言葉を思い出したからだ。あの時、滴はこう言った。
「何も心配いらない。だって、あなたにはその子がいる。その子があなたに生きる力をくれる」
そのとおりだった。わが子が生きる力をくれたと感涙するハナ。「そんな子を手放そうとするなんて」と自責の念にかられる。佐智も親子の気持ちを考えずに養子縁組を申し出たことを詫びる。
湘南清風総合病院でも大きな動きが。佐智が病院に融資してくれることになり、病院の業務削減とリストラの計画が白紙になった。
数週間後、元気を取り戻したサヤ。ハナはサヤの父である貴之に「私に生きる力を授けてくれてありがとう」と礼を言う。貴之は妊娠した茜を助けるために、そして彼女と心を開いてもう一度向き合うために、離婚を撤回する。
砂浜では親子のように遊ぶサヤと加地の姿があった。彼らを見つめるハナのもとに一人の女性が現れる。8年前、優しい言葉をかけて自分を救ってくれた滴である。穏やかな笑みを浮かべると、彼女の幻は消えていった。(終)